逗子・斜面崩落事故 管理組合、管理会社らを提訴 死亡生徒の遺族 約1億1800万円の賠償請求

投稿日:2021年02月20日 作成者:福井英樹 (3111 ヒット)

神奈川県逗子市のマンション敷地の斜面が崩落し、市道通行中の高校生が死亡した事故から1年が経過した2月5日、遺族がマンションの全区分所有者と管理組合を、管理業務を受託している管理会社らに対し、約1億1800万円の損害賠償等を求めて横浜地裁に提訴した。管理会社・管理組合については善管注意義務違反による不法行為責任等を追求する構えで、敷地の保全責任を誰が負うのかが問われることになりそうだ。

訴状によれば、被告は区分所有者・管理組合、管理会社と同社従業員。それぞれ連帯して損害賠償金を支払うよう求めた。計700万円の慰謝料支払いも求めている。

原告が追求する、各者の法的責任を上表(略)に示した。

区分所有者には土地工作物所有者もしくは占有者として責任を負う、と指摘した。

昨年2月に国土技術政策総合研究所が行った現地調査では崩落について「乾湿、低温等による風化を主因としたもの」と報告。

この点から原告側は「異常な自然力による誘因もなく、ある日突然風化により土砂が崩落したのだから、造成地として通常有すべき安全性を欠いている」とし、「設置または保存の瑕疵が存在する」と言及。敷地を共有する区分所有者を工作物所有者もしくは占有者だとし、土地工作物責任に基づく損害賠償責任を求めた。

「管理組合は共用部分の占有者ではない」と結論づけた上級審の判例があるなどの点から、管理組合ではなく区分所有者全員を「土地工作物の所有・占有者」と見なしたと考えられる。

崩落した斜面が「土地の工作物」に当たるかどうかについては「宅地造成地も自然の土地に人口を加えて作ったものであるから土地の工作物」だとし、崩落した斜面を含む敷地は「造成地として土地の工作物に当たる」と結論づけている。

マンションの敷地については、1960年ごろ、地山が市道工事のため切土。道路脇に擁壁が造築され、68年ごろ造成地として造成以降手付かずのまま、2003年ごろマンションの建築が申請され「当初の造成地の形状を維持したまま建築が許可され、マンションの敷地になった」と経緯を解説している。

また、当初のマンション開発業者が実施した擁壁の地質調査結果で、03年時点で調査した斜面の対策工事の必要性や風化による強度低下が指摘されていたことも明らかにした。

管理会社の従業員については管理委託契約上の善管注意義務違反による不法行為責任を追及している。

同従業員は事故前日、敷地巡回中崩落した斜面上部の地面に長さ約4メートル・幅1センチの亀裂を発見して写真を撮影。その後「同日中に管理会社担当支店に連絡、担当者に対応を相談し危険情報を共有していた」とする。

こうした状況から、事故が起きる可能性を予見できたのに、亀裂周辺やその直下区域への人の立ち入りを禁止するといった、注意義務を怠り必要な対策を取らず、「漫然と放置した過失」により、斜面を崩落させ生徒を死亡させた、とした。

管理会社には従業員同様の善管注意義務違反に加え、従業員の使用者責任も併せて追求。

現場は土砂災害防止法による土砂災害警戒地域に指定され、事故直前の20年1月には県による2回目の地盤調査が行われていた点から「危険であることを十分に認識していた」としている。

管理組合は、管理会社に業務を委託し管理組合としての管理業務を遂行させていた点から管理組合の善管注意義務違反としての不法行為責任、また管理会社従業員の行為について使用者責任を負うとした。

原告側は使用者責任を負う使用者が複数いる場合も「各損害賠償責任は不真正連帯債務となる」と述べている。

以上、マンション管理新聞第1162(2021年(令和3年)2月15日)号より。


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