設備改修実施はゼロ タワーマンション実態調査結果 「5年後までに予定」も 東京・新宿区
東京都新宿区が公表したタワーマンション実態調査結果。前回に引き続き管理組合アンケートの結果を紹介します。「現在建物や設備に不具合があるか」の問いには28組合中16組合が「ある」と回答。大規模修繕工事は13組合が「実施している」と答えましたが、給・排水管の更生・交換など設備改修を行ったマンションはまだありませんでした。タワーマンションならではの課題を尋ねた自由回答には災害・エレベーター、修繕積立金に関する不安が寄せられています。
区内の分譲タワーマンションは全30棟で管理組合数は28。管理組合アンケートの回収率は100%。
設備・建物、長期修繕・大規模修繕計画、管理組合運営、マンション内コミュニティー、地域との交流などについて尋ねた。
設備・建物
「現在不具合があるか」の問いには16組合が「ある」と回答。築11年以下のマンションでも6組合中4組合があると答えた。具体的な内容は「給湯器」(築22年以上)「地下の漏水」(築11年以下)など。
長期修繕・大規模修繕計画
長期修繕計画は22組合が作成。作成中が3組合、無回答が3あった。計画期間は「30年間」が16組合で最多。「31年間以上」が2組合あった。
直近の見直し年は2014年以降が15組合。09~13年が3組合、08年以前が1組合。
大規模修繕は13組合が実施。「築12年~21年」では15組合中8組合が実施している。築11年以下の実施はまだない。1組合が大規模修繕を2回以上実施した、と答えた。
各種工事項目を用意し、それぞれ実施の有無なども尋ねている。給・排水管の更生・交換を実施したマンションはないが給・排水管の更生を「今後5年間に工事実施予定」とした組合がそれぞれ3あった(表【略】参照)。エレベーターの改修・交換は4組合が「今後5年間に工事実施予定」だとしている。
管理組合運営
委任状や議決権行使書を除く、実出席者は「1割以上~3割未満」が12組合で最多。「1割未満」が8組合で続く。「5割以上」も2組合あった。
役員の任期は「2年」が12組合、「1年」が10組合、「3年以上」はゼロで「定めなし」が3組合。改選方法は「半数改選」が11組合と「全員同時改選」(10組合)を上回った。
役員の選出は「輪番制」が11組合。「立候補」が4組合だが9組合が「その他」と答えた。記述欄には輪番・立候補・推薦の併用、抽選が挙がった。
日ごろのマンション管理運営で困っていること(複数回答)は「役員等のなり手不足」(12組合)がトップ。以下「居住ルールを守らない居住者の増加」(9組合)「管理組合活動に無関心な居住者の増加」(8組合)「賃貸住戸の増加」(7組合)と続く。「大規模地震に対する建物・設備の耐震性」「コミュニティー活動に要する資金の不足」「管理会社(管理員)の対応」といった項目を選んだ管理組合はなかった。
マンション内コミュニティー
マンション内の自治会については「ない」が22組合。「管理組合とは別に自治会組織がある」が3組合。「管理組合内に一組織として自治会がある」が2組合。管理組合・自治会が取り組んでいるコミュニティー活動のトップ3は「防災対策」「祭り・イベント開催」「リサイクル・資源回収」。
「コミュニティー活動を活発にすべきか」の問いには16組合が「思う」、9組合が「あまり思わない」と回答した。築年数別では「築11年以下」は回答のあった6組合全てが「思う」と答えた。「あまり思わない」理由については「参加しない居住者が多い」(5組合)が最多。「必要性を感じない」が3組合、「プライバシーに関わる」が2組合。
防災
防災組織は「ある」13組合、「ない」14組合。防災マニュアルは14組合が「ある」と答えた。防災に関する取り組み(複数回答)は「防災訓練」が23組合で最多。3組合が要援護者の名簿を作成していた。「特にしていない」も3組合。町会の防災活動に組織として参加していたのは5組合。15組合は「参加しておらず参加する予定はない」としている。
「マンションの公開空地を避難場所として利用した方がよいと思うか」の問いには12組合が「思う」。3組合が「あまり思わない」、5組合が「思わない」と答えた。
今後の取り組み
今後取り組みたい、現在取り組んでいる事項のトップ3は「防災」「防犯」「高齢者の支援」。
タワーマンションならではの課題についても尋ねた。自由回答で災害時エレベーターが不通になった時の対応方法など、「災害」「エレベーター」に関するものが比較的多かった(表【略】参照)。
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報告書では今後のタワーマンションの維持管理等に関する取り組みの方向性として▽代理役員や第三者管理者制度の活用▽居住ルールの策定▽公開空地の活用▽修繕計画と積立金の算定見直し▽空き駐車場の活用ーを提示している。
以上、マンション管理新聞第1144号より。
以下、「限界タワーマンション」榊 淳司著 集英社新書 より抜粋。
第二章 タワーマンション大規模修繕時代
タワーマンションの大規模修繕は想像以上に困難
「これと同じ工事を今、同じ12億という金額でできますか?」
そう尋ねると、H氏は即座に答えた。
「絶対に出来ません」
続けて私は尋ねた。「今ならおいくらになりますかね?」
H氏はちょっと困った顔をした。「さあ、15億でもできるかどうか・・・」
H氏はスーパーゼネコンといわれる建設大手企業グループで、タワーマンションの大規模修繕などを得意とする子会社の部長である。
12億円というのは、彼の会社が数年前に行った約650戸のタワーマンションにおける、大規模修繕工事の費用だった。H氏はその大規模修繕工事の担当者であり、技術主任のような役回りであった。
H氏に取材する数週間前、私とある雑誌の編集者は彼の会社が大規模修繕を行ったというタワーマンションの管理組合を取材した。
私たちが話を聞いたのは、管理組合の理事たちと思われる面々10人ほど。
「今回は12億で何とかなりましたが、次回はいくらかかることやら」
そのリーダー格と思われる方は、ぼそっとそうつぶやいた。
次回はおそらく今から12、3年後。その時、仮に15億かかるとすれと、現状の管理組合の積立金会計では足りなくなるという。
「その時には、私だって生きているかどうかわかりませんけどね」
彼がそう言うと、他の理事さんたちが苦笑いをしていた。見渡すと、40代と思しき理事さんが二名ほどで、あとはみな60代以上と見える方々。
「この人は長く理事長をされていました」
そう言われた方は70代半ばと見受けられる風貌だった。
そのタワーマンションは、ブームの先駆け的な存在として20世紀が終わろうとする時期に誕生。築17年を迎えた時期に大規模修繕工事に取り掛かり、工期二年で無事完了。タワーマンションの大規模修繕工事としては模範例を示したと捉えられている。
私たちが取材させていただいた限り、施工業者であるH氏が所属する会社の高い施工能力も発揮されて、かなりうまく行ったケースではないかと思われた。
しかし、この先行事例によって多くの不安要因も浮かび上がってきたのである。
二回目の大規模修繕はさらにハードルが上がる
まずは、何よりも費用の問題がある。
タワーマンションの構造は基本的に鉄筋コンクリートである。鉄もコンクリートも経年劣化していくことは避けられない。
さらにタワーマンションの場合、外壁部分はALCパネル(Autoclaved Lightweightaerated Concrete 高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート)やサッシュなどになっている。これらと鉄筋コンクリートの躯体部分との間は、シーリング材というゴム状の接着素材で接続されている。
シーリング材は、おおよそ15年で劣化するとされている。つまり、15年に一度程度は必ずシーリング材の劣化部分を補修しなければ、そこから雨水などが室内に漏れてくる可能性があるのだ。
いってみれば、15年に一度の大規模修繕はタワーマンションにとっては存続の必須条件となっていると考えられる。
その費用は、一回目で一住戸あたり200万円から250万円程度が目安。二回目だと300万円以上になる可能性もある。
ところが、建築コストは日々増大している。だから、私が取材したこのタワーマンションも「次の大規模修繕は費用が足りなくなる」という悩みを抱えているのだ。
費用が足りなければ、臨時に徴収することになっているが、居住者が高齢化すれば、そう簡単なことではない。
2011年、東京・多摩エリアのあるタワーマンションが東日本大震災で大きな被害を被った。
そのタワマンは、なんとまだ築1年であった。管理組合は当然の如く売主に無償での補修工事を要求した。売主企業はマンション分譲の大手。そこから施工したゼネコンへ補修工事を要請した。ところが、このゼネコンは破損部分について「これはすべて地震が原因です」と開き直った。なおかつ補修費用として一億数千万円の見積もりを、しれっと出してきたという。
結局、そのマンションの管理組合は臨時で区分所有者から一時金を一住戸あたり数十万円徴収して、そのゼネコンへの支払いに充てたそうだ。
管理組合が「施工不良だ」と騒げば、そのマンションは欠陥建築として世間に知られるようになる。売主も施工会社も、あるいは管理会社さえ「騒げば資産価値に悪い影響が出ますよ」と管理組合を脅す。このパターンは施工不良が見つかった時に、売主サイドが使う常套手段となっている。
「資産価値に悪影響がある」当言葉は、いつかは売却しようと考えている区分所有者の団体である管理組合にとっては、「脅し文句」となる。実のところ、分譲マンションで施工不良が見つかるケースはかなり多いが、そのほとんどがこのパターンで脅されて管理組合側が泣き寝入りしている実態がある。
不幸中の幸いというべきか、築一年ということもあり、この時期なら、一住戸あたり数十万円の一時金徴収でも無理なく行えたのだった。区分所有者たちは全員が一年前に一億円前後のマンションが買えた人々である。数十万円の支払いなら「まあ、仕方ないか」ということにもなるだろう。
しかし、築30年になったらどうだろうか。区分所有者も高齢化している。年金暮らしになっている人も多いはずだ。というか、新築時購入者の半数以上は年金暮らしになっていてもおかしくない。
築30年だと、エレベーターの交換時期でもある。一基につき数十万円の費用が想定される。また一回目にはさほど必要ではなかった配管の取り換えも、この時期がふさわしい。工事費用は一回目の1.5倍程度に膨らんだとしても不思議ではない。
そういう人々に「大規模修繕のために一時金を各住戸○○○万円ご負担下さい」と、三桁の額を言って、易々と応じてもらえるのか。また、そういうことは管理組合の総会で可決しなければならないのだが、賛成多数になるのだろうか。
また、仮に二回目を何とか乗り切ったとしても、またその15年後には三回目がやってくる。費用は二回目よりも高くなると考えるのが常識だろう。
以上、「限界のタワーマンション」榊 淳司著 集英社新書より抜粋。