判例トピック 議決権行使書に候補者名を記入 「修正動議の提出」と判断 理事選任巡るトラブル 執行部提示議案に反対
候補者名が明記されていない役員選任案承認議題に反対し、総会当日理事になってほしい区分所有者の氏名を書いた、過半数を占める議決権行使書を提出した行為は議題について「修正動議」が提出されたと考えられ、その上で「書面による議決権行使」が行われたというべきー。管理組合理事の選任を巡る裁判で東京地裁は1月31日、判決で、こんな解釈を加えた。田中秀幸裁判長は区分所有法が定める二つの議決権行使方法について言及。「代理人による議決権行使」の場合、代理人が議題について修正動議を出せることとの均衡上、「書面による議決権行使」の場合も「自ら修正動議を提出した上、この動議に係る議案について書面により議決権を行使することもできる」との判断を示し、書面に記入された区分所有者が理事に選任された、と認めている。
事件の舞台となったのは神奈川県のワンルーム物件(30戸)。
管理組合唯一の理事で理事長を務める人物に批判が集まり、別の区分所有者が自身を含む数人を理事候補者にする議案などを掲げた総会の招集を理事長に請求した。
理事長は請求には応じたものの議題は「役員の選任案承認の件」とされ、招集請求側が示した区分所有者の氏名は候補者として記載されていなかった。
これを見た招集請求者側は、理事長が適正な「『招集の通知』を行わなかった」と判断。理事長側が開いた総会の2日後に総会を開き理事選任案を議決し理事に就任した。理事長側が開いた総会で議題になった役員選任案は否決されている。
しかし理事長は招集請求側が開いた「総会は無効」と主張したため、このときすでに提訴を考えていた区分所有者は手続き的な不具合を突かれないよう再度同様の議案を掲げ総会招集を請求。理事長はこれも請求に応じたたものの、前回同様候補者名を明らかにしなかった。
そこで区分所有者側は総会当日、議決権行使書で理事長側の理事選任案に反対の意思表示を行うとともに自身らの氏名を理事候補者として記載し、議決権を行使。行使された議決権は過半数に達したため「自分たちが新しく理事になった」と主張した。
ところが、この行為が成立したかどうかで紛糾し以後3回、最初の総会招集請求から数えると7ヶ月間に6回もの理事選任を議題にした総会が開かれる異常事態に陥った。
この「総会合戦」のさなかに区分所有者側は「自分が理事長」との立場を崩さない理事長と管理会社を相手取り管理組合理事長として管理組合印や預金通帳、共用部分の鍵等の引き渡しを求めて提訴。理事長は総会決議の不存在・無効を主張し、訴えの却下を求めた。
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判決ではまず、候補者名を提示せず議題のみにとどまった総会招集が有効かどうかについて言及。田中裁判長は区分所有法35条1項の「会議の目的たる事項」は「『議案』の要領までは含まれないと解するのが相当」と判示。理事長側が示した議題は「『会議の目的たる事項』にほかならない」とし、区分所有者側が自ら開いた総会決議は無効だと結論づけた。
区分所有者側が行った理事候補者名を記載した議決権行使書の行使については、まず、「書面による議決権行使」の原則論を展開。
「集会で当該議題について具体的にどのような議案が討議され、決議されるかを事前に知ることが出来ないのが通常で、賛否を書面にて記載して提出できないのが一般的」と述べている。
一方で「書面による議決権行使」を行おうとする区分所有者が具体的にどのような議案が討議され、決議されるかを事前に知っていた場合、これについての賛否を記載した議決権行使書を「否定すべき理由はない」。議案には「修正動議」に係る議案も含まれる、との解釈を示した。
修正動議については本人だけでなく「代理人も議題について修正動議を提出できることの均衡上、書面による議決権行使の場合も自ら修正動議を提出」できるとし、「修正動議に係る議案について書面による議決権行使ができる」と述べた。
その上で理事選任を巡る経緯から、理事長が再度の招集請求に応じた総会議題の「役員の選任案承認の件」については、書面による議決権行使を予定する区分所有者が「具体的にどんな議案が討議され、決議されるかを事前に知ること」ができた、と認定。
議題に反対した上で区分所有者を理事に選任する旨を示した議決権行使書は「書面による議決権行使書」にも認められた「修正動議」の提出に当たる、と判断し、この議決権行使が過半数を占めた点から区分所有者側を理事に選任する「修正動議に基づく総会決議があったのは明らか」だと結論づけた。
判決では理事長に対し、新しく選任された理事に管理組合印や預金通帳などを引き渡すように命じている。
判決は確定している。
以上、マンション管理新聞第1130号より。