限界マンション 次に来る空き家問題 米山秀隆著 日本経済新聞社刊終章より
本書においては、マンションという住まいの形態が、その終末期においてどのような課題に直面するかについて論じてきた。今後は、マンションの2つの老い、すなわち、建物の老朽化と区分所有者の高齢化が進展し、空室化、賃貸化がより一層進み、限界マンションが増えていく。従来はマンションの出口については、建て替えを第一に考え、それを促進するための法整備や支援策が中心に講じられてきた。しかし、これまで述べてきたように、建て替え可能な物件は限られる。したがって、マンションの出口については、今後は解体、敷地の売却といった方向性を考えていくことが第一となる。
誰が解体の責任を果たすのか
この場合、建物の寿命が尽きた時に、その建物の解体費用を誰が出すのかが最終的な問題となる。この問題は、長期修繕計画の中で、最後に解体費用が残るように修繕積立金の積み立てが行われていれば基本的に解決する。ただし、そうしたところまでをにらんだ長期修繕計画の合意を得るのは簡単ではない。解体費用の積み立てまでできる物件は、敷地に価値があり、相応の価格での売却が見込まれる場合と考えられる。そうでなければ解体は、全額自費で賄うことが前提になるからである。東日本大震災後に全壊判定された被災マンションは、最終的には区分所有権を解消して解体できたが、解体費用が公費によって賄われたことが大きい。公費解体が行われる前提でなければ、区分所有権解消の合意が得られていたかは疑わしい。
解体費用の自主的積み立てが難しいとすれば、次善の策として、固定資産税による解体費用の徴収もある。しかし、すべての区分所有者の負担が増すため、これも導入は困難が予想される。
区分所有者が解体の責任を果たさないとすれば、最終的にはフランスにおいてスラム化したマンションのように、限界的な状況になった場合に、行政が買い取って取り壊すとい選択肢が必要になる。つまり公費解体である。もちろん、国土交通省も最終的にマンションがこのような事態に至る可能性に気づいていないはずはなく、強制収用の仕組みを導入することが将来的に必要との認識を示している。この場合、すべての物件の強制収用、解体は難しいため、放置していくことが危険な状態になったものについて、実施するということになるだろう。つまり、現状のままではマンションの最終的な出口は、公費解体ということになる。
区分所有者の中には、本書の問題提起によって、マンションに住み続けること、あるいはマンションを購入したことについて少なからず不安や後悔の念を抱かれた方もいるかもしれない。しかし、現実には本来は所有者が果たすべき責任、つまり寿命が尽きた時の解体の責任は必ずしも厳しく問われるわけではなく、公費解体が最終的な答えになるとすれば、そう心配はしなくてもいいことになる。ただし、そう思われることは、区分所有者のモラルハザードを引き起こすことになるため、今後も国土交通省は管理の重要性を強調していくことに変わりがないだろう。
求められる解体費用分担の仕組み
実際、自分の所有するマンションがスラム化に至るような事態は、できるだけ避けるに越したことない。そのためには、管理組合を機能させ、必要な修繕を行って資産価値を維持し、中古としても魅力的な物件であるように努力していくことが必要になる。新たな購入者が出てくる限り、スラム化に至る可能性は低くなる。ただ、中古としても魅力的な物件であるためには、建物自体に問題がないことはもちろんであるが、立地条件によって大きく左右される。今後は世帯数が減少し、住宅需要が減る一方なので、立地条件の悪い物件はそれだけで不利になる。
また、マンションが建設され、ある程度の時間が経っていくと、収入に余裕のある層はより条件の良い物件に住み替えたり、一戸建てに移る場合も出てくる。条件の悪いマンションほど、新たな購入者が現れず、新たな購入者が現れたとしても、場合によっては、フランスでのスラム化したマンションのように、低所得者層が集まる物件になってもおかしくはない。こうしたところまでは、まだ日本では起こっていないと考えあれがちであるが、リゾート物件にはすでにそれに近い現象が起きている。バブル期に大量供給された物件が大幅に値崩れして、数万~数十万円程度で買えるようになり、低所得者層が流入しているケースである。
要するにここまで述べてきたことは、立地条件が良く、敷地に価値がある場合は、老朽化した場合でも建て替えや再利用はもちろん、敷地の買い手も出てくるため、あまり心配はいらない。ところがそうではない大半の物件は、解体費用すら捻出できず、放置される危険性が高いということである。公費解体は、区分所有者以外の人々も費用を負担しなければならなくなるため、公平性を欠く。区分所有者が、解体費用を確実に負担する仕組みを確立しておくことが望ましい。
さらにタワーマンションの問題が浮上
そして、本書では、共同住宅を分譲するという供給方式にそもそも問題があったとの考えから、代替的な供給の仕組みについて検討した。そうした仕組みはまだ普及しておらず、より良い仕組みについてなお研究していく必要性が高い。
空き家問題との関わりでいえば、今は一戸建ての問題が中心であるが、やがてマンションの問題が深刻化し、そしてその次にはタワーマンションの問題が浮上してくると考えられる。タワーマンションは、当面は、大規模修繕の方式を確立することが課題であるが、やがて来る建て替えや解体の問題は、区分所有者数が多い上、巨額の解体費用を要することから、通常のマンション以上に深刻になる。
タワーマンションについては、そうした将来に直面する問題を見据え、分譲形式ではなくすべて賃貸形式で供給するのも選択肢との提案がかつてなされていた(福井<2007>)。ところが、現実には分譲形式の供給は増え続けた。現在供給されているタワーマンションは、物理的には100年は保つように設計されているといわれるが、100年後に爆発するかもしれない時限爆弾が、いま着々と埋め込まれているともいえる。タワーマンションも公費解体しか道がなくなるとすれば、その負担はさらに大きくなる。
通常のマンションにしろ、タワーマンションにしろ、問題が最終的に行き着く先は、解体費用の手当に集約されると考えられる。繰り返しになるが、区分所有者が解体費用を負担する仕組みを確立する必要性を強調しておきたい。その場合、現にマンションを保有する人、今後、購入する人の負担は増すことになるが、これまで最終責任について明確に自覚することなく購入してきたこと自体がおかしかったと言える。マンションを購入する場合は、老朽化した場合のリスクについて、購入時の重要事項説明書の中で義務づけることが必要である。
以上、「限界マンション 次に来る空き家問題」米山秀隆 日本経済新聞社刊 終章「空き家問題の今後の展開と限界マンション」より。