高圧一括受電導入でトラブル 反対者が総会決議に従わず 解約拒否は「共同の利益」侵害? 「安い電気料金を享受できず損害」 区分所有者が提訴 不法行為で賠償請求 一・二審では原告勝訴も 最高裁が上告受理 2月5日に弁論

投稿日:2019年02月06日 作成者:福井英樹 (5930 ヒット)

 高圧一括受電方式の導入が総会で可決されたにもかかわらず、電力会社との電気供給契約を解約しなかった区分所有者2人のせいで同方式への変更ができなくなったなどとして、導入を推進していた管理組合専門委員会の元委員が、同方式を導入できれば支払う必要のなかった電気料金相当額を「損害」だと位置づけ、区分所有者2人に不法行為に基づく損害賠償を求めた裁判について、最高裁が上告審として受理する決定を出した。区分所有者の不法行為責任を認め、電気料金相当額の支払いを命じた一・二審判決が変更される可能性がある。決定は昨年12月25日付。第三小法廷で、2月5日に双方の意見を聞く弁論が開かれる。  <2018年10月25日付・第1086号に関係記事>
 裁判資料によれば、事件の舞台になったのは総戸数500を超える札幌市の団地型マンション。
 管理組合は2011年頃から、通常の契約と比べて電気料金が安くなる「高圧一括受電方式」による専有部分への電力供給の導入検討を始め、14年8月、4分の3の特別決議で同方式の導入を可決した。
 翌15年1月には、個々の区分所有者は電力会社に代わり管理組合と電力供給契約を結ぶほか、同方式以外の方法で電力供給を受けてはならないなどのルールを定めた電気供給規則の制定や管理規約の変更を決議している。議案書には、議案承認後、各戸と電力会社の電気供給契約を解除することも盛り込まれていた。
 決議に伴い管理組合は電力会社との電気供給契約を解約し、同方式を申請する一連の書面の提出を求めたが、決議に反対した区分所有者のうち、2人は書面の提出を拒否。ほかの反対者は最終的に書面を提出したが、同方式を導入するには区分所有者ら世帯主全員の書面提出が必要だったため、予定していた時期の導入ができなかった。
 これに対し、同法方式の導入検討などを行ってきた専門委員会で委員を務めた区分所有者が「この2人が書面を提出しなかったために高圧一括受電方式が導入できない」と強く非難。
 従来の電気料金と、仮に同方式が予定通り導入された場合に実現した低額の電気料金との差額を「支払う必要のなかった電気料金相当額の損害」だと位置付け、2人を相手取り、不法行為に基づく損害賠償などを求めて16年5月、札幌地裁に提訴した。
 請求額は、導入予定時期から提訴2カ月前までの約5カ月分の差額約9000円。
 提訴から約3カ月後、管理組合は同方式の導入保留を決議。翌17年には導入撤回を総会で決議した。
 書面を提出しなかった区分所有者には「共同の利益に反する行為」だとし、管理組合は区分所有法59条に基づく競売請求を求めたが、棟総会で否決されている。

                  ◇

 原告は当初、書面の提出も求めていたが後に取り下げている。
 裁判の主な争点は、区分所有者2人が電力会社との電力供給契約の解約を拒否し書面を提出しなかった行為が不法行為に当たるか。
 一般不法行為の成立要件は①故意又は過失がある②他人の権利または法律上保護される利益を侵害している③損害が発生している④侵害行為と損害の間に因果関係があるーなど。
 17年5月の札幌地裁判決では不法行為責任を認め、区分所有者2人に連帯して約9000円を支払うよう命じた。
 岡山忠広裁判官は「共用部分の変更および管理に関して集会の決議で決した以上、この決議に従うのが共同利用関係にある区分建物において当然の理」だと言及。決議に従わず書面を提出しなかったため、高圧一括受電方式が導入できず、他の区分所有者が低額の電気料金を享受できなかったとすれば、「区分所有者または居住者の権利または利益を侵害したものとして不法行為による損害賠償請求権に基づいて、差額の電気料金を賠償すべき」だと結論づけた。
 17年11月の札幌高裁判決も一審判決を支持。
 竹内純一裁判長は、決議に反対した区分所有者が書面を提出せず、同方式の導入を妨げたのは「区分所有者等の共同の利益たる低廉な電気料金の享受を妨げ、侵害したと認めることができる」と判断。「低廉な電気料金の利益」は「法律上保護される利益」に該当する、とした。
 区分所有者は「契約の解約は総会決議で強制できない」などとして反論したが、竹内裁判長は「契約自由」は「区分所有者の共同の利益の実現のための制約を免れない」と指摘。
 同方式以外の方法での電力供給を受けてはならない、と定めた電力供給規則の下では規則に反する契約手続きは認められず、解約書面の提出を拒む理由とはならない、と述べた。

 解約「義務」についての効力 区分所有法上の「根拠」問う

 区分所有者側は上告受理申立書で①決議に従わないことを理由として、区分所有者に対する「他人の利益または法律上保護される利益」の侵害は認められない②電力供給契約の解約をしないことは「共同の利益」を侵害する行為に当たらない③総会決議の効力の解釈に誤りがある、などと主張している(表に上告が受理された主張を抜粋)。←下欄に箇条書き
 ①では「専有部分の契約をいずれの電力会社と行うかは区分所有者に委ねられているのは明白」と述べ、この行為をもって不法行為の成立要件を満たすと認めることはできない、と反論。総会決議を重視した原判決を「決議は区分所有者に対し法律上保護される利益を付与するものではない」と批判した。
 総会決議に反する行為や共同の利益に反する行為があった場合、区分所有者個人の権利として請求することは想定されていない、とも言及している。
 ③では、契約の解約は総会決議事項ではない、と改めて強調。高裁判決が指摘した「共同利用関係による制約」を理由に「本質的な権利である、電力供給先を選択することまで許容されるものではない」とした。
 最高裁は、電気供給規則の制定をするなどの総会決議により「電力会社との契約について解約申し入れをすべき義務を負う」とする原告の主張に対し、総会決議または規則が区分所有者に対して、こうした義務を負わせる効力を持つことについての区分所有法上の根拠について、さらに押し広げて説明したい点があれば答弁書で明らかにするよう、期日外の釈明を求めている。

 
 上告が受理された申し立て(表)

総会決議を理由として区分所有者に対する「他人の権利または他人の権利または保護される利益」の侵害と認められない

総会決議後も専有部の電気供給契約の解約を行わないことは「共同の利益」を侵害する行為に当たらない

総会決議の効力の解釈に誤りがある

以上、マンション管理新聞第1094号より。

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