マンション管理 更新拒まれ 業者「採算とれなくなった」住民は困惑 清掃・警備 高騰する管理費相場 値上げ迫られ「自分たちで運営決断」 朝日新聞2021年9月12日号より
マンションの清掃や資金管理などを委託していた管理会社から管理を断られるケースが、都市部を中心に増えている。契約拒否されやすいのは、50戸以下と小規模で、築年数が古く、今後の修繕工事などでの利益が見込みづらいマンション。背景には、人件費の高騰などで管理コストが上がり、管理会社が利益を出しにくくなっていることがある。
「会社の事情もあり、もう契約の更新はできません」
昨年1月、川崎市のマンションの管理組合の理事長の男性は、管理会社の担当者にこう言われた。5年ほど前から契約しており、「青天のへきれき。かなりショックだった」と話す。
更新拒否の理由について理事長は、約40戸と小規模で、築43年と古く、管理会社にとって「うまみ」がなくなったためではないか、とみる。
このマンションの管理組合では、修繕工事の際、この管理会社からの見積金額が高いとして、他の業者に依頼することが多かった。また、修繕積立金の残高も少なく、今後の工事も見込めなかった。別の会社の関係者は「こうしたことが更新拒否の理由では」と指摘する。
理事長の男性は、「管理会社が利益を出せる工事を受注できず、もうからない管理組合との付き合いはしたくない、との意思表示だと感じた」と振り返る。
更新拒否された後、数社に打診し、なんとか別の管理会社が見つかった。「このまま見つからなければ自主管理になり、不安は大きかった」と話す。
管理組合のコンサルタント業などを行う「メルすみごこち事務所」(東京)の社長でマンション管理士の深山州さんは、「大手・中堅の管理会社から契約の更新を拒否されたと相談を受けるケースが、ここ数年で急増した。これまでの業界常識からして前代未聞」と話す。全国的な傾向だが、特に東京や大阪など、都市部の郊外にあるマンションで顕著だという。
東京都マンション管理士会によると、2年ほど前から、管理費の値上げに応じられず管理会社から更新拒否された組合が、新たな管理会社の探し方を相談してくるようになったという。担当者は「相談先には自治体の窓口などもあるため、合わせると都内で相当な数になるのでは」と話す。
業界紙「マンション管理新聞」が2019年に管理会社30社を対象に調査したところ、約7割が採算が取れていないことなどを理由に管理組合との契約を辞退したことがある、と答えた。
背景には、管理にかかるコストの上昇がある。
マンション管理人や清掃員の最低賃金が引き上げられたことなどで、人件費が上昇。管理費に転嫁しようとしても、組合側が値上げに応じられず、さらに修繕積立金の残高が少ないことなどから、解約に至るケースが多いという。
大手管理会社の担当者は「清掃や警備などのコストが増え、日頃の管理業務では利益が出ない。その代わりに、日々の修繕工事や十数年ごとにある大規模修繕工事を請け負うことで埋め合わせる構造になっていることが多い」とし、「修繕費用の積み立てが少なく、収益を得るチャンスが少ない組合は、切り捨てることもある」と明かす。
不動産調査会社の東京カンテイ(東京)によると、首都圏の新築マンションの管理費は、19年までの直近10年間で約18%上昇した。
高騰した理由の一つが、管理人らの人材不足だ。
かつて、マンション管理人は「シニアの第二の働き口」で、60代前半で定年退職した人たちが多く採用されていた。ところが、13年に施行された改正高年齢者雇用安定法で、希望者全員を65歳まで雇うことが企業の義務に。定年退職者の採用が難しくなった。
全国の管理会社などが加盟するマンション管理業協会が管理会社を対象に実施した調査(17年)によると、回答した会社の8割が「(直近)3年以内で採用が難しくなってきた」とした。採用難の理由として「給与や時給単価が低い」「売り手市場」「定年の引き上げ」が、いずれも6割を超えた。
全国マンション管理組合連合会の元会長川上やすひろさんは「更新拒否されているのは、小規模で築年数を経たマンション。古いマンションほど、年金暮らしの住民も多いため管理費の値上げに応じにくく、管理会社が決まらなければ放置状態にもなりかねない」と指摘。「建物も住民も老いる中、管理会社も利益を出しにくくなっており、更新拒否は今後も増える可能性がある。今後のマンション管理の大きな課題だ」と話す。
管理会社に頼り切らずに一部を住民で運営するなど、管理方法を見直す動きもある。
横浜市のあるマンションは、今年11月から会計業務や理事会の運営などを住民自らで担う予定だ。昨年ごろから、管理会社から管理費の値上げを打診されてきたが、年金暮らしの住民もおり、応じるのが難しいことなどから解約。清掃などの建物管理は、組合が専門業者と直接契約する一方、会計などを三菱地所のグループ会社イノベリオスが提供するアプリで住民が管理し、コストを抑える。
80代の女性理事長は「自分たちでうまく管理できるかはこれからだが、管理方法を見直す良い機会だった」と話す。
マンション管理に詳しい横浜市立大学の斎藤広子教授(不動産学)は「マンション管理の主体はあくまで住民で、管理会社はサポート役。だから、住民の関心が薄く、理事のなり手がいなかったり、工事の合意形成ができなかったりするとサポートできない。管理会社に丸投げするのではなく、自分たちでできるところから、管理方法を見直しことが重要」と指摘する。
行政もサポート
マンションは私有財産である一方、管理状況は地域全体にも影響を与え、災害時には防災拠点にもなり、「公共財」に近い役割を持つ。昨年6月には、適切な管理を行政も後押しする改正マンション管理適正化法が成立。問題があれば、区分所有者や組合の求めがなくても行政が指導や助言をできるようになった。斎藤教授は「行政も管理に関わる流れになり、今後の管理にあり方も分岐点がきている」と話す。
以上、朝日新聞2021年9月12日号より抜粋。