災害に弱いタワーマンション 「限界のタワーマンション」榊 淳司著より
第三章 災害に弱いタワーマンション
長期地震動という新たな脅威
日本は世界一といいほどの地震大国だ。だから、これまで地震に強い建物を作るための試みがさまざまに行われてきた。マンションについては、何といっても建築基準法であろう。
中古マンションの耐震性を判断する基準に「新耐震」と「旧耐震」の区別がある。1981年の6月に建築基準法の改正が施行され、ほぼ今と同じ耐震基準ができあがった。これ以降に建築確認が下りた建物を「新耐震」と呼ぶ。それ以前は「旧耐震」。
この基準が注目されたのは1995年に起こった阪神・淡路大震災。数多くの建物が倒壊あるいは補修できないほどに大破したが、そのほとんどは旧耐震の建物だった。
2011年に発生した東日本大震災でも、新耐震の建物のほうが旧耐震に比べて被害が少なかったことが立証された。したがって、不動産業界では「取りあえず新耐震のマンションを選んでおけば安心」という考え方が浸透した。
さらに、東日本大震災においては免震や制振構造の超高層建物の揺れが、普通の耐震構造の建物に比べて小さかったことが確認された。したがって、東日本大震災以後に計画されたタワーマンションは、ほとんどが免震や制振構造を採用した。そのどちらかなら安心である、ということをマンション業界ではほとんどの人々は信じている、といって過言ではない。
ところが、そういった耐震基準がここにきて大きく揺らぎだした。その理由は二つある。
まず、第一に東日本大震災の発生によって「長期地震動」というものが注目された。長期地震動というのは、大きな地震で発生する、揺れの周期が長い地震のことだ。一回の揺れが1~2秒から7~8秒で、横に大きく揺れる動きである。
この長周期地震動は、どうやらタワーマンションのような超高層建築において、より危険が大きいようだ。つまり高層階ほど大きく揺れるので想定外の被害が出やすいのだろう。そしてこの長周期地震動というものを、現行の建築基準法では想定していない。
2016年6月、国土交通省は「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」を公表した。
それによると「対象地域」における長周期地震動への対策を、新築と中古に分けて示している。新築の場合は、2017年4月1日項に性能評価を申請して、大臣認定に基づいて建築される「高さが60mを超える建築物と4階建て以上の免震建築物」の長周期地震動に対する安全性の検証が義務化されている。
中古の場合は、対象建築物は同じだが、「自主的な検証や必要に応じた補強等の措置を講じることが望ましい」とされた。ただし、義務化されていない。何とも中途半端な対策ではないか.
中略
この新たに判明した長周期地震動への対応を盛り込んだ形で建築基準法を改正すると「新・新耐震」という基準ができてしまうので、従来の「新耐震」は危険だと世間に捉えられるかもしれない。そうなれば不動産市場に混乱を招く可能性もある。それを避けるために、こういう中途半端な対策で長周期地震動というタワーマンションに対する新たな脅威をごまかそうとしているのではないかと勘ぐってしまう。
長周期パルスでタワマンが倒壊する可能性も
そして、二番目は2016年の4月に発生した熊本地震に見られた現象である。被害などは報道されたとおりだが、この地震で建物の耐震専門家に大きな衝撃を与えるデータが観測された。熊本県阿蘇郡西原村の役場に置かれた地震計で観測された、特殊な揺れだ。
それは「長周期パルス」と呼ばれるものだった。
長周期パルスとは、三秒ほどの長周期の揺れが大きな変位を伴って一気に発生する大きな地震動のことだ。熊本地震では活断層付近で観測された。
この長周期パルスについてはNHKが「メガクライシス・シリーズ巨大危機Ⅱ 第1集都市直下型地震 新たな脅威”長周期パルス”の衝撃」という番組(2017年9月放映)の中で紹介し、世間に大きな衝撃を与えた。
簡単にいえば、長周期パルスではこれまで想定していたよりも大きな揺れが突然発生するということだ。そして、現状の免震や制振構造は長周期パルスを想定していない。だから、長周期パルスに襲われたタワーマンションがどのようになるのかについても想定されていなかった。
番組の中で工学院大学の久田嘉章教授は「本当に条件が悪いと、倒壊する可能性はゼロではなかった」とコメントしている。
また、番組が制作したシミュレーションドラマでは、建物が倒壊の危険にさらされて人々が逃げ出すシーンも出てくる。
それはまさに「タワーマンションは地震に強い」という、これまでの常識を覆す内容であった。番組では多くの専門家が今、その対策としてさまざまな手法を考案していることも紹介されていた。
長周期パルスが発生しやすいのは、活断層のあるエリアである。大都市の中では、特に大阪市の中心部が危険とされていた。
阪神・淡路大震災の後、「1981年6月施行の新耐震基準を満たしたマンションなら安心」というムードがマンション業界を始めとして世間一般に広がっていた。しかし、東日本大震災後に注目された「長周期地震動」と、熊本地震でにわかに浮かび上がった「長周期パルス」の存在により、新耐震といえども確かな安全性が確保されていない可能性が見いだされた。
実際のところ、タワーマンションが林立するエリアに震度7以上の地震が起きたケースはない。今までは「新耐震なら大丈夫」という共通認識が持てたが、本当に地震が起こってみないと分からないのではなかろうか。
以上、「限界のタワーマンション」榊 淳司著より抜粋。
先日2月13日午後11時8分ごろ、福島県沖を震源とする東日本大震災の余震という地震が起こって、同県中通り、宮城県南部などで最大震度6強を記録した。14日の気象庁発表によれば、マグニチュードは7.3(暫定値)。マンションでも揺れによるエレベーターの停止や配管破損による漏水、外壁タイルの落下、玄関扉の開閉不良といった被害が報告されている。「10年前の地震より、大きく揺れた感が強い。」とタワマン居住の某テレビ局で有名なナレーターがおっしゃっていましたが、上記本文でも中古の場合は、対象建築物は同じだが、「自主的な検証や必要に応じた補強等の措置を講じることが望ましい」とされた。ただし、義務化はされていない。何とも中途半端な対策ではないか。この新たに判明した長周期地震動への対応を盛り込んだ形で建築基準法を改正すると「新・新耐震」という基準ができてしまうので、従来の「新耐震」は危険だと世間に捉えられるかもしれない。そうなれば不動産市場に混乱を招く可能性もある。それを避けるために、こういう中途半端な対策で長周期地震動というタワーマンションに対する新たな脅威をごまかそうとしているのではないかと勘ぐってしまう。」と憂いを込めて語られています。