未曾有の事態に直面 マンション管理業も苦渋の選択 業務縮小・一部中止も 緊急事態宣言
新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言が4月7日、発令された。7都府県が対象で期間は5月6日まで。宣言を受け、業務の縮小や一部中止・延期を決める管理会社が一定数に上っている。管理員や清掃といった現場の生命線ともいえる業務の縮小に踏み切るケースもあり、マンション管理業は未曾有の事態に直面した。
4月8日午後4時過ぎ、都内マンションの管理事務室に、業務委託する大手管理会社から1枚のFAXが届いた。
「緊急事態宣言に伴う弊社管理業務のお願い」と題された文書には、宣言が解除されるまで「管理スタッフの配置が出来ない」「共用部分の各種工事・メンテナンスは延期する」などの対応が記されていた。ごみ出しについては収集日の搬出作業までを必要最低限のスタッフで行う、とされていた。
突然の「宣言」に驚いた理事長は在宅勤務中のフロント社員に連絡。できるだけ管理員の勤務を続けてもらうよう求めた。
結局、管理員は週明けの13日から時短勤務を実施することで決着が付いたが、10日には管理会社側が翻意。
「管理員・清掃員共に従来通り勤務を続ける」と連絡があった。
ごみ出し業務中断なら「マンションが崩壊」
当面の危機を乗り切った形だが、管理組合理事長は「ごみ出しだけは絶対にやってもらわないといけない。マンションが崩壊する」と口にした。
別のマンションでは10日、期間中における管理会社の正式な対応内容が掲示された。日常清掃は管理員が実施する場合も含め、ごみ出し・ごみ置き場の清掃などの一部業務だけを実施する、各種点検は一部延期・中止する旨の内容だった。
管理組合理事長は「仕方ない」と、あきらめ顔で語った。
「コンシェルジュサービスは休止。現場スタッフも時短をお願いしたい、と通告があった」と、都内大規模マンションの居住者。6月に予定する総会の日程も決まっていない。
「こんな事態だからこその管理会社。何のために管理委託費を支払っているのか」と、会社側の対応に困惑といら立ちを隠せない。
◇
一連の業務縮小・一部中止は緊急事態宣言を受けた苦渋の選択だ。管理会社も関係会社を含めた社員の安全を守る責任があるが、「縮小・中止」に管理組合の理解を得られないケースもある。
マンション管理業は開業始まって以来の緊急事態に陥った。
以上、マンション管理新聞第1135号第一面より。
以下、同号第四面関連記事
70代の管理員が感染 新型コロナ 都内マンションに勤務 コミュニティワン
コミュニティワンは4月7日、管理業務を受託する東京都内のマンションに勤務する管理員が新型コロナウイルスに感染していることが判明した、と発表した。発症後も出勤していたが、同社では「居住者や従業員に濃厚接触者はないことが確認されている」としている。このマンションの管理業務は現在中止している。
同社によると、この管理員は70代の男性。居住地や感染経路は公表しない。4月1日に発熱し、当月は休務して医療機関を受診したところ、PCR検査で4月3日に陽性が判明した。現在は入院している。
保健所と連携し管理事務室を中心に共用分の消毒を実施した。
同社によると、管理組合とは感染判明から適宜連絡を取り、トラブルには発展していない。
60代の男性も ごみ出し業務は 代務員が対応 東急コミュニティ
東急コミュニティは4月10日、管理業務を受託する東京都内のマンションに勤務する管理員が新型コロナウイルスに感染していることが判明した、と発表した。同社従業員や管理組合に濃厚接触者はいない。
同社によると、この管理員は60代の男性で感染経路は不明。4月8日に発熱して9日に医療機関を受診し、同日中にPCR検査で陽性が判明した。現在は入院している。
このマンションでは感染者発生について全戸案内と掲示での報告を実施した。管理事務室など共用部分の消毒も行った。同社によると、管理組合とのトラブルは発生していない。
同社は「緊急事態宣言」の発令後、通常の管理員業務を中止しているが、当該マンションのごみ出しは代務員が対応している。
濃厚接触者4人 支店勤務社員が感染 大和ライフネクスト
大和ライフネクストは4月10日、奈良支店に勤務する社員が新型コロナウイルスに感染していることが判明した、と発表した。この社員の年齢、性別、居住地は公表しないて方針。担当業務や管理組合との接触も明らかにしていない。
同社によると、この社員は4月2日以降、体調不良のため出社しておらず6日にPCR検査を受け、9日に陽性が判明した。
濃厚接触者は4人で全員が同支店の社員かは非公表。可能性がある社員は自宅待機と健康状態の経過観察を指示したという。
事務所は入居するビルのテナント共用部分を消毒した。
以上、マンション管理新聞第1135号第四面より。
以下、同第六面より。
管理員・清掃員 勤務中止も マンション管理業 上位30社の対応チェック
緊急事態宣言を受け、管理会社各社がホームページで公表した宣言期間中の業務対応方針を、昨年3月末時点の総合受託件数上位30社を対象にまとめました。管理員・清掃員は派遣しない、など現場作業の休止を決めた会社もあります。
総合管理受託戸数件数上位50社中、4月13日現在で33社が自社ホームページで宣言発令等に伴う対応を告知。上位30社では今年4月1日付けで吸収合併された長谷工スマイルコミュニティ・総合ハウジングサービスを除く28社中22社が清掃・点検・管理員・管理組合業務や工事などの業務対応を告知している。各社の対応は表(省略)に示した。22社中17社が宣言発令日以降に対応を発表している。
現場業務で最も重要と考えられるのは「ごみ出し」だ。マンションの規模によって異なるが、ごみの搬出は管理員・清掃員が担っている。ごみの仕分け・分別などを行っているケースも多い。
だが緊急事態宣言の発令で、このごみ出し業務の休止を打ち出した会社もある。
ごみ出しについて、特に条件を付けずに「実施する」と言及したのは長谷工コミュニティと三井不動産レジデンシャルサービスの2社。
大和ライフネクストやグローバルコミュニティらは、直接の言及はないが管理員・清掃業務について「できる限り実施する」方針を掲げており、ごみ出しも継続する、と考えられる。ただ「状況に応じて実施できない場合ももある」としており、現場によって対応を変えざるを得ないケースがありそうだ。
一方、これも明確な言及はないが、原則として当面の間「管理員・清掃員の勤務を中止」する方針を打ち出したのはコミュニティワン。
同社の場合、現場に勤務する管理員がPCR検査で陽性判定されたことも「勤務中止」を決めた要因の一つになっていると考えられる。派遣を中止するため現場での清掃・管理員業務を実施しない、つまり、ごみ出し等の作業も行われないことになる。
ライフサポート西洋は宣言発令前の4月2日時点で清掃員の出社見合わせを決定。管理員も24時間常駐物件を除き、同様の措置を取る、とした。4月14日現在も原則的には出社を見合わせているという。ごみ収集に伴う、ごみ置き場の解錠が必要な場合は「居住者自身での対応をお願いする」と踏み込んだアナウンスを行った。
清掃員・管理員の派遣を「中止する場合がある」、「時短や勤務中止を申し入れる場合がある」といった表現を使う会社が複数あった。
「各階ごみ置き場を含む、ごみ置き場からの搬出作業ができなくなる場合がある」と訴えたのは野村不動産パートナーズ。穴吹ハウジングサービスも清掃・管理員は派遣を継続するが「派遣自体が出来なくなる可能性がある」と、苦しい台所事情がうかがえる。
◇
管理会社各社とも、現場におけるごみ出し業務の重要性は当然認識している。ごみ出し以外の「清掃業務」は原則休止などの対応を取る会社があることからも、それは明らかだが、従来通りの業務を継続するには難しい現状がある。
◇
設備点検業務は従来通り実施、あるいは停止・延期・中止といった対応が取られている。立ち入りに関しては、会社側が業務を継続する方針でも居住者に入室を拒否されるケースも想定される。
管理業務では、総会や理事会などの開催延期の依頼・提案が目立つ。
東急コミュニティーは「会計決算提出時期の変更などの影響が生じる場合がある」としている。住友不動産建物サービスでは、月次報告や決算報告などの会計業務が「停止または延期する場合がある」としている。
工事は、予定通り実施もあるが、「原則休工」や延期などの対応を取る会社もある。
上位20社中4月13日時点で自社ホームページに対応を掲載していない会社では、三菱地所コミュニティが管理員業務の範囲を「ごみ出し業務係わる業務に限定」し、それ以外は「物件の個別の対応で相談させていただいている」と回答:合人社計画研究所は「管理組合の指示に従う形で業務を進める」、大成有楽不動産は「お客様との協議結果により対応は一律ではない」と、それぞれ回答した。
以上、マンション管理新聞第1135号第6面より。