『S』評価 どうしたら? 昨年11月には診断棟数が1万を突破 高まる存在感 鍵握る『給・排水管工事』 マンション管理適正化診断サービス
マンションの管理状況をS・A・Bの3段階で評価する、一般社団法人日本マンション管理士会連合会(日管連)の「マンション管理適正化診断サービス」の存在感が増している。昨年11月には診断数が累計で1万棟に達する一方、不動産・住宅情報サイトを運営する「LIFULL」との提携も決まった。S・A評価を受けたマンションは、管理組合が希望すれば物件情報に評価結果を掲載できるようになる。同サービスでは、どんなマンションが高評価を受けるのか。最高評価の「S」を得るためのポイントを探ってみた。
同サービスは2015年11月スタート。
研修プログラムを受けた「診断マンション管理士」が管理実態や長期修繕計画、修繕工事状況など18項目について棟ごとに診断を行い、結果や管理運営などのアドバイスを記した「マンション共用部分診断レポート」を作成、管理組合に提出する(表①【省略】に診断項目の概要)。診断費用は無料で、評価は5年ごとに更新する決まりだ。
満点は100点。サービス開始当初は64点満点だったが評価方法などを含め、おととし1月に改定した経緯がある。
60点以上はS、59~30点はA、29点以下はB、と評価する。評価に当たっては①5年未満②5年以上10年未満③10年以上15年未満④15年以上20年未満⑤20年以上ーと築年による区分を設け、区分によって配点が変わる項目もある。
結果に応じ業務提携先の日新火災海上保険が発売する「マンションドクター火災保険」の保険料割引を受けられるメリットがある。
日新火災海上によれば、昨年11月末までに診断を実施した1万棟のうち、S評価を受けたのは全体の約30%。A評価がやく45%、B評価は約25%だった。
S評価マンション(棟)を築年別に見ると、築20年以上が約80%と大部分を占めた。築10年以上15年未満が約16%で残りの約4%は築10年未満。
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日管連は評価項目の詳細な配点を公開していないが、「最も配点が大きいのは『給水管・排水管工事の実施状況』です」(事務局)と教えてくれた。
配点は給・排水管合わせて、なんと50点。100点満点中5割を占める。仮に給・排水管工事でポイントが獲得できなければ、他の全項目が満点でもS評価は受けられない計算だ。
給・排水管工事の配点が大きいのには、理由がある。
同サービスは、評価結果次第で「マンションドクター火災保険」の保険料が割引される。マンションの保険事故で最も多いのは「漏水」。このため、保険会社からすれば事故の大きな要因になる給・排水管の維持管理状況には敏感にならざるを得ない、というわけだ。
診断項目に「漏水事故歴」や浸水被害リスクがある「地下室の有無」が設けられているも、このためだと考えられる。
「保険と連携している制度なので、(保険事故の)リスクも考え(配点に)加味されています」(同)
給水管工事・排水管工事の評価方法を表②(省略)に示した。A~Dの配点は公表されていないがAは給・排水管工事共に満点が与えられると考えられる。
ちなみに専有部分の配管は、更新を一斉に行っていなくても、自発的に更新した住戸が一定以上あった場合は加点の対象になる。
問題はA以外、つまり給・排水管工事の更新工事を行っていない場合にどんな評価がされるかだ。
B・Cの場合、過去15年以内に更生工事を行っていても保証期間が終了してしまうと加点対象にはならない。また「築20年以上」で配管に異常がないため現時点では更新・更生を実施していない、といったケースは特に維持管理に問題があるとは言い難いが、結果としては配点が低いD、もしくはそれ以下の評価となってしまう。
実際に診断業務を行うマンション管理士も「高耐久部材が採用されている、などの理由で更新・更生工事を実施していない築20年以上のマンションは、評価で割を食ってしまっているところはあると思う」と指摘する。
ただ制度が保険と連携しているため「(保険会社が)リスクを見る、という側面からすると一概におかしいともいえない」とも。この辺りは、より適正な評価方法を確立する上での課題ともいえそうだ。
このマンション管理士に給・排水管工事でどの程度の評価を得ればSを獲得できるのか聞くと「ほかの項目との兼ね合いは当然であるが経験上、C・Dだけでは厳しいと思う」と話した。
おととし診断を実施した築40年を超える東京都内のマンションは排水管工事はDだったが、給水管はAを獲得しS評価を受けた。
一方、昨年実施した都内のマンション(築40年弱)は給水管D、排水管CでA評価にとどまった。ただし、合計点は59点。あと1点加算があればS評価になっていた。給・排水管以外で加点されていない項目があったため、改善すればSには十分届きそうだ。
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診断を実施しているマンション管理士は「以前は高評価を得れば保険料が安くなるから、という理由で診断を受けるところも多かったが、最近は単に自分たちのマンションの客観的な評価を知りたくて実施するケースも出てきている」と話す。
サービスを実施すると、管理組合には「診断レポート」が提出される。このレポートには診断結果に加え、管理組合運営や長期修繕計画・修繕積立金、修繕工事・法定点検などについてのアドバイスなどを記した「総合所見」が添付される。
この「総合所見」で、どんなアドバイスが得られるか興味を持つ管理組合が少なくない、ということか。
サービスは無料のため、今後は管理組合の「力試し」に利用される機会が増えそうだ。
以上、マンション管理新聞第1126号より。