講演要旨    3/28  マンション管理センターシンポジウム     「マンション管理を新しい潮流へ」

投稿日:2019年05月02日 作成者:福井英樹 (1551 ヒット)

 3月28日に東京・水道橋の住宅金融支援機構本店すまい・るホールで開かれた公益財団法人マンション管理センター主催のマンション管理シンポジウム。テーマは「マンション管理を新しい潮流へ」。当日は、長期ビジョンを作成した団地の取り組みや管理不全マンションの予防事例、判例や現行の区分所有法で管理組合ができる範囲についての講演があり、弁護士や関係団体を交えて意見交換が行われました。ここでは講演の要旨を紹介します。講演者は公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部メンテナンス部会の宮城秋治氏、横浜市立大学の斉藤広子教授、早稲田大学法科大学院の鎌野邦樹教授の3人。

 一歩進んだマンションの維持管理   公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部メンテナンス部会  宮城秋治氏

「長持ちの鍵」4項目を提示

 宮城氏は、埼玉県坂戸市の団地(築40年、34棟889戸)の取り組みを紹介。マンションを長持ちさせる「鍵」として①長期ビジョンの作成②役割の分担③共用部分だけでなく専有部分も考える④老いとの共存ーを挙げ報告した。
 ①では、2001年に団地の長期ビジョンを作成するため委員会組織「プロジェクト21」を設立。翌年に100項目ほどある建物・設備・住まい方についてのアンケートを実施したことを紹介した。
 アンケートの回収率は90%に達していたといい、それを基に同組織が理事会に「世代を問わず快適に暮らせる団地」とする答申をし「『築60年までは建替えないで使っていきましょう』ということを、まず第一にメッセージとして打ち出した」と回想した。
 具体的な活動は、大規模修繕関連や5階建ての棟へのエレベーターの設置、電気容量アップを検討する営繕・バリアフリー部会、植栽関連や使われなくなったプールの扱い方、駐輪場の増設を考える外構・公園・駐輪場部会、集会所の増改築や託児所などの設置、空き室の借り上げを検討する集会所・福祉部会が分担する形で進めていた、と述べた(表に各部会における検討事項)。3部会は修繕委員会内に設置。
団地の中長期営繕計画へ落とし込み「結果的には修繕積立金を1平方メートル当たり243円まで上げた」とした。
 ②では、団地内の連携を説明。理事会が団地管理組合の窓口を担い、理事長・副理事長・施設営繕理事、広報理事が修繕委員会に入っているとした。理事会と修繕委員会がそれぞれ広報を発行するなどの役割も紹介した。
 プロジェクト21の設立以降、実際に集会所の増改築によるコミュニティースペースの拡充、屋上の断熱改修、給・排水管の更新、アルミサッシ・玄関扉の取り替え、駐輪場増設、電気幹線増量などを実現したと述べた。
 ③では、2回目の大規模修繕で実施した、浴室と洗濯パンのスラブ下の排水管をスラブ上にする改修する改修工事を解説した。共用部分と構造上一体となっている専有部排水管の改修で修繕積立金を充当することについて「(お金の)出どころは区分所有者ということになるので、総会で承認を得れば工事ができないだろうかということで取り組んだ」と述べた。
 共用部の2本のたて管を1本に集約して大型洗面台を置けるようにする一方、浴室はリフォームに備えてスラブ上に接続口を設け、使用細則で接続をルール化するといった「仕組み、枠組みを作って段階的にスラブ上化していく取り組みをしている」と紹介した。
 ④では、エレベーターの設置は難しかったが「完璧を目指さない。一部諦めも大事なところ」と指摘した。
 その上で「あまり無理をしないで年金でも払える修繕積立金にとどめることも重要」と述べた。

  作業部会の検討事項
①営繕・バリアフリー部会
 大規模修繕工事関連
 5階建て住棟にエレベーターを設置
 契約電気容量アップ

②外構・公園・駐輪場部会
 植栽関連
 徒歩池の位置付け
 屋根付き駐輪場の増設

③集会所・福祉部会
 集会所の改築や増築
託児所、デイケアセンター、弁当宅配センターの可能性
空き室の借り上げの可能性

マンションの管理不全をどう防ぐのか    横浜市立大学国際総合科学部教授  斉藤広子
 
 管理頑張るマンション「市場で評価されないと」

 斉藤教授は、いわゆる「管理不全」になる理由や管理不全予防の取り組みを紹介した。
 基本的に管理組合や管理規約、管理費、修繕積立金、長期修繕計画、管理会社のサポートがないなど「当初からその体制がなかったというのが、大きな管理不全につながっている」と指摘した。
 横浜市で築30年以上のマンションを調査したところ「4%くらいが管理不全、2割くらいが予備軍」だとし「既に7、8年全く誰にも使われていないといったものが登場してきている」と述べた。
 その調査から「比較的、都市部で管理不全に陥りやすい」類型として、業者が買い占めて倒産し、債権者が多く権利関係が整理できていない地上げ型、建物の一部を分譲した一部分譲型、低層の長屋型、小規模の自主管理型、事務所や店舗が混在する小規模雑居型を挙げた。
 管理不全の予防については、行政に開発段階から「管理のシステムをつくっていただきたい」とし、管理段階での「押し掛け」の支援も挙げた。
 一方で管理組合が管理を「頑張っているマンションが市場で評価されないといけない」と指摘した。
 実際の予防の取り組みでは、築50年、約800戸の団地を紹介した。管理会社が空き住戸を10戸ほど買い取った上でDIYができる住戸として賃貸し、「若い人が入ってきて気に入ったら買っていく」と説明した。
 また、東京都の築約20年、15戸のマンションで、不動産業者が空き住戸だった10戸をまとめて買い取り、この業者と管理組合の負担で共用部分を改修した事例も紹介した。持続可能な管理ができるようにと「管理費を下げ修繕積立金を上げた。駐車場は平置きを増設して収入が上がるようにし、長期修繕計画を立てて管理組合をしっかりサポートしてから売り出した」と解説。この日配布された資料によれば、全戸が完売だった。
 管理不全を予防する「ビジネスモデルが成立している」と述べた。

 

管理組合はどこまでできるか     早稲田大学法科大学院教授  鎌野邦樹氏

 鎌野教授は、マンションが高経年化し、居住者が高齢化する中で「管理組合はどこまでできるか」について判例や想定される事例を基に解説した。
 まず、専有部分の高圧一括受電化を巡る3月5日の最高裁判決について「社会の変化に適合的に管理組合で何かやろうということに、水を差す判決」と批判した。

 専有部分の取得 「なかなか難しい」

 一方、管理組合が管理費等を長期滞納していた区分所有者に対する区分所有法59条に基づく競売請求と転売を前提に当該住戸を買い受ける決議を認めた2013年11月7日の東京高裁判決を挙げ、前提として管理組合の目的の範囲として専有部分を買うことは「なかなか難しい」と述べた。
その上で「恐らく実質的には競売しても全然意味がなくなるということで、こういう場合に限っては購入し、さらに転売まで認めようということだったのではないか」と推し量った。
 事例では、集会室がない管理組合が理事会で使う集会室として住戸を購入するケースを説明した。
 区分所有法では「管理者あるいは理事を置く。そして規約とか議事録の保管がある」とし、理事会の場所や書類の保管場所といった「区分所有法の基本的な要素が賭けているということで、少なくとも購入することまで含めて、共用部分の変更の中に含めていいのではないかと考える」と述べた。
 購入した住戸を集会室ではなく、談話室やゲストルーム、キッズルームにしたり、第三者に販売したりする場合は「原則的になかなか難しい」と指摘。また、コンビニなどへの賃貸や福祉施設にする目的で団地内の店舗を購入する旨の決議も同様とした。
 管理組合が高齢者の見守りサービスや、専有部分の電球交換といったいわゆる専有部サービスを管理会社などに一括して委託する事例についても言及し、「当該区分所有者固有の問題なので、なかなかこういうのを管理組合で管理会社に委託するのは、管理費の支出からでは難しいというのを原則としないといけないだろう」と解説した。
 ただ「区分所有法ができた状況にがんじがらめに縛られるのは望ましくない」と指摘。時代や住む人のニーズの変化に対して「最終的には立法的な手当が必要なのかなと思う」と述べた。

以上、マンション管理新聞第1103号(2019年4月25日・5月5日合併)号より。

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