高層マンションシンドローム 白石 拓著 祥伝社新書刊 750円 2010年12月10日発行分より抜粋記事
表紙裏書き
高層マンションの目に見えぬ怖さ
眺望の良さなどから近年人気の高層マンション。その数は増加の一途をたどり、10階以上の高層マンションはおろか、都市部では20階を超える超高層マンションが林立するようになっている。
だが近年、流産率の異常な高さが公表され、高所に住むことのストレスは、目に見えない形で私たちに多大な影響を及ぼしていることが、最新の研究で明らかになってきている。
高層マンションに暮らすことの影響とは?私たちがそれらから身を守る術はあるのか?豊富なデータから、実態を明らかにする。
前書き
超高層マンションが人気である。
国内外の投資家たちが投資対象にしているという面もあるようだが、超高層マンションに住みたいという人が多いのも事実だ。低中層階の価格がリーズナブルになり、既存の周辺マンションとの差がなくなってきたという事情もある。さらには、広大な公有地が放出され、2002年に制定された<都市再生特別措置法>が後押ししたこともあって、首都圏をはじめとして、超高層マンションの建設ラッシュが続いている。
本書のテーマである「高層マンション症候群(シンドローム)」とは、こうした超高層マンションを含めた高層マンションに居住することで住民に生じるとされる、さまざまな肉体的あるいは精神的な諸症状をいう。
しかし、本当に高層マンションに暮らしたら「高層マンション症候群(シンドローム)」に見舞われるのだろうか。
結論を先に言えば、「見舞われる」のだ!ただし、誰もがそうなるわけではないし、リスクの大小には個人差がある。では、どのような人に危険性が高いのか。また、そのリスクは何によってもたらされるのか。本書では、これまで報告されてきたさまざまな研究結果と多方面への取材をもとに、リスクの詳細について明らかにしていく。
さらに、これまでほとんど話題にされることがなかった高層階・超高層階の環境についても検証する。高層階の気温、湿度、気圧は地表とどう違うのか。風の強さや騒音についてはどうか、大気汚染の影響はないのかなど、あらゆる角度から高層階をとらえ、そこに居住する住民への影響を考えていく。
本書の執筆にあったっては、専門家へのインタビューのほか、高層マンションに暮らす多数の住民にも話を聞いた。彼らは高層階での暮らしをどう感じているのか。その内容については、コラムを中心に本文でも随所で紹介したい。
また、「高層マンション症候群(シンドローム)」の話題とははずれるが、忘れてならないのが、高層マンションの耐震性である。この地震大国日本で、超高層マンションが本当に被害を受けずにいられるのか?1995年に発生した兵庫県南部地震による阪神・淡路大地震をはじめとして、過去の地震災害の例をひもとき、高層マンションの強さ・弱さを検証したい。
そして、近い将来に必ず起きるといわれている東海地震、東南海地震、南海地震という三つの巨大地震。それらは同時にあるいは連鎖的に発生するとも予想されている。その結果、高層マンションはどうなるのか。とくに、巨大地震で生じる「長周期地震動」という周期の長い揺れが超高層マンションを狙い撃ちすると考えられているが、それがどのような揺れであり、なぜ、超高層マンションが狙われるのかについても、くわしく取り上げるつもりである。
なお、本書が「高層マンション症候群(シンドローム)」のリスクの対象としているのは、高層・超高層マンションにおけるすべての住民ではなく、基本的に高層階・超高層階に暮らす住民を念頭に置いていることを、あらかじめ確認しておきたい。
高層オフィスについて
高層マンションで起きることなら、高層オフィスではどうなのかという疑問も生じるだろう。高層オフィスにおける心身障害に関する信頼できる研究報告はほとんどないが、わずかながら社員の精神的・心理的な不安をもたらしている可能性を指摘する声もある。
そもそも、居住性を重視したマンションに比べて、一般にオフィスビルは構造的に揺れやすく、内部騒音なども伝わりやすい。また、高層階の環境は基本的にビルの用途に関係ないことなので、これらに関しては、第三章と第四章を参考にしていただきたい。
後書き
本書では、高層マンション症候群(シンドローム)」として、高層階に暮らす妊婦の流産、幼児の自立遅れ、幼児のアレルギー疾患と高所平気症を主として取り上げ、住民の精神・心理的影響にも言及した。そして、その原因を探るべく、さまざまな観点から高層階という環境を検証するとともに、近年地震や建築の専門家の間で危惧されている、大地震発生時の長周期地震動による高層マンションへの影響にも触れた。
しかしながら、分譲高層マンションに関しては、それら以外にもじつに多種多様なトラブルが報告されている。なかでもマンションの管理・運営に関する問題は複雑で、築年数の経ったマンションの補修や建て直しをめぐり、住民の意見が真っ二つに割れて結論を出せないという話は多い。老若男女、いろいろな立場の人が住んでいる高層マンションでは、若い人は建て直しに賛成しても、高齢の住民には受け入れがたいことは容易に理解できる。
敷地内の緑を一部つぶして駐車場を増やす計画について、自治会(管理組合?)の話し合いがいつも紛糾するという話や、防犯カメラの増設さえすんなりと決まらない例も聞いた。
超高層マンションでは、超高層階と低層階の住民間に経済格差があるというのもよく耳にする話だが、そんな大人の優越感をいつしか子供たちが敏感に感じ取り、階数の違いを優劣の差と勘違いするようになったなどという笑えない話もある。
ただし、本書はあくまで住民の心身に関わる問題を中心に、科学的な観点から高層階住民を検証することを主題としてきたので、上記のような話題は他書に譲ることとした。
本書の結論は、妊婦や子育て家庭は高層階に住まないほうがよいというものである。とくには触れなかったが、高齢者だけの世帯にも不安や不都合が多い環境ではなかろうか。
とはいえ、子育て家庭であっても、外出を心掛けるとか、部屋の換気に注意を払うなどの対策をとることで、高層階居住の弊害を緩和できることも述べた。むろん高層階に暮らすとだれもが体調が悪くなるわけではないし、何ら問題がない人も大勢いる。
だから、こういっては身も蓋もないかもしれないが、どこに居住し、どのように暮らすかは、自己責任で決定するほかない。ただ、その判断の一助として、本書が少しでも役立ってくれるならば望外の喜びである。
平成二十二年十一月 白石 拓
以上、白石 拓著「高層マンション症候群(シンドローム)」祥伝社刊 750円(当時)より。
8年以上経過し、発行後久しく、高層マンション建築はKYB問題とも相まって停滞していますが、ニュース性は十分にあると思われます。というのも、高層階住民に流産が多いという事実を小職が師と仰ぐ建築家の先生でさえもご存じありませんでしたので、この場で紹介させていただきました。当該記事を読んでいただき、本書に興味をもっていただければ、幸甚です。