追跡 東日本大地震でせん断多数 「耐震性に瑕疵」と提訴 業者が約9億円で買い取り
東日本大震災では、被災マンション管理組合が売主や施工業者の責任を追及し、決着が法廷に持ち込まれたケースが仙台市で2件、郡山市で1件と、確認できただけで3件あった。仙台市の2件は和解で決着裁判が終了(2018年8月15・25日付・第1080号参照)。郡山市の訴訟も和解で決着している。分譲業者が全区分所有者の権利を買い受け、解決金を支払う内容だった。マンションはすでに取り壊され、敷地は戸建て住宅の分譲用地になっている。
このマンションは東日本大震災当時、築9年。10階建てで住戸数は38。震災で梁などに、せん断破壊が多数発生したとされる。
管理組合は耐震性に瑕疵があったなどとして12年9月、マンションの売り主や施工業者、設計・監理者に対して総額約15億316万円の損害賠償を請求する訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。
提訴から約2年後には、施工業者が震災後の応急措置として実施した仮養生の費用210万円の支払いを求めて反訴していた。
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裁判記録によれば、和解は提訴から約3年後の15年7月16日付。
売主が全区分所有者の区分所有権・敷地権を計約9億3624万円で買い取る、解決金として計5億円の支払い義務があることを認める、設計事務所が見舞金として190万円を支払う、などが和解の主な内容だった。
このほか各区分所有者は、所有権移転登記手続きや抵当権抹消登記手続きなどを行うほか、和解成立から1年後の16年7月16日までにマンションを明け渡すことで合意。反訴事件は、施工業者が請求を放棄した。
住戸の専有面積は約63~約86平方メートルで、売り主の買い取り価格は約1969~約3502万円。
解決金は区分所有者内部で分配を定めることになっていたが、具体的な分配額は不明だ。
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裁判では、管理組合は、マンション購入時のパンフレットで「建築基準法の1.25倍の耐震性能」などと記され、重要事項説明でも耐震性が強調されていたが、調査では「設計図書上の保有水平耐力比は0.48しかなかった」と指摘。構造計算ソフトの解析条件設定で「虚偽の耐震計算をした」と主張した。
さらに杭径の変更や開口部付近の補強筋の間隔不良も耐震性の低減に挙げていた。
売主らは請求の棄却を求めていた。
耐震性について売主は「建築基準法の地震による力の1.25倍の力に対する値を有している」と主張し「瑕疵は存在しない」と反論。建物は「当時の法令に従って適法に設計されたものであり、建築主事から建築確認を受けていることからも明らかである」と主張していた。
杭径については「変更後の杭径でも耐震性を満たす旨の報告を受けている」と主張。開口部の補強筋間隔不良では、施工業者が「安全性に問題がないことを確認している」と反論していた。
管理組合は、建て替えた場合の費用について引っ越しや仮住まいを含めて総額約14億2516万円と算定していたが、売り主らは管理組合の主張が認められたとしても、是正工事が可能で費用は2億3785万円と主張していた。
施工業者の反訴については、管理組合は「工事内容、工事金額等を明示し相互に合意書面を取り交わす必要があるが、そうした書面は存在しない」と請求の棄却を求めていた。
裁判は12年11月の第1回口頭弁論以降、弁論準備手続きなどを含めて審理は20回以上と仙台のケースとほぼ同じ回数に及んでいる。少なくても15年4月には和解の話し合いが行われていたようだ。
仙台市青葉区と郡山市の裁判の被告は異なるが、仙台のケースでは、施工業者が管理組合に請求額の約6割に当たる9億円を支払った。郡山のケースでも、売り主が請求額の9割超に当たる合計約14億3624万円を支払う形となった。管理組合が算定した建て替え費用約14億2516万円と比較しても、約1108万円上回っている。
売買代金や解決金などはすでに支払われているとみられ、マンションは取り壊されていた。
現在、跡地では戸建て住宅の建築工事が行われている。戸建ては計8棟で、そのうち6棟はほぼ完成しているとみられ、残り2棟は9月末と11月末にそれぞれ完成予定となっていた。
以上、マンション管理新聞第1083号より
購入した新築マンションに隠れた瑕疵があれば、売主(分譲業者)に対して瑕疵担保責任(民法第570条・566条)を追及することができます。
売主の瑕疵担保責任は、無過失責任であり、売主に対する請求としては、まず、損害賠償請求があります。補修(上記事例は区分所有権並びに敷地権の買取)そのものにかかる費用のほか、補修工事等のための間の仮住まい費用や引越費用、調査費用や弁護士費用の一部や慰謝料も損害として認められる場合もあります。
上記事例では、売主や施工業者、設計・監理者に対して損害賠償を請求する訴訟をしていますが、そもそも、買主と施工会社等との間には、直接の契約関係はありません。設計や監理を行った建築士等についても同様です。
ただ、施工業者や建築士等は、建物としての安全性を維持するために配慮すべき注意義務を負っており、違反した場合には、契約関係にないものに対しても不法行為責任を負うことになっています。
建物としての基本的な安全性を損なうような瑕疵があり、居住者の生命、身体または財産が侵害された時には、瑕疵について生じた損害について、他に特段の事情がない限り、賠償責任を負うことになります。
さらに、当該基本的な安全性を損なう瑕疵というのは、現実の危険性が生じている場合はもとより、瑕疵を放置していると、そのうち居住者の生命、身体または財産に対する危険が現実化するような場合も含むとされています(最判例)。
もっとも、瑕疵担保責任は個別性があり、それぞれ性質の異なる責任であるため、すべての欠陥マンションに適用できることはないため、どのような責任追及が可能なのか専門家に都度相談する必要があります。