北海道地震 管理会社9社に聞く 外構陥没 「中破」被害報告も複数 電気設備故障で近隣管理組合に支援要請
最大震度7を観測した北海道地震から半月が過ぎた。分譲マンションでも一定程度の被害があり「中破」も報告されている。東日本大震災や熊本地震の経験を生かして対応に当たっている管理会社によれば、停電の影響でスマートフォンなどの充電ができない、また事前に用意していた蓄電池が不足するなどの事態に見舞われた。
北海道に管理物件を持つ9社に被害状況や現在の取り組みなどを聞いた。
被害の内容は、外壁タイルなどのクラックや剥離、エキスパンションジョイントの損傷など。
停電によるエレベーターの停止や断水の復旧時期について回答があった4社では、エレベーターの全棟復旧は最短で震災翌日の9月7日。最長は震災3日後の9日。断水の解消は7日。だった。
受託物件469棟中127棟に被害があった日本ハウズイングでは、駐車場などの陥没もあり、現在被害の復旧に取り組んでいる。
受水槽室の冠水や給水ユニットの破損に伴う断水も発生。被害は2棟で、断水は解消したが、設備交換などによる完全復旧は10月上旬の予定だという。
229棟を管理する大京アステージ。約40棟で建物被害があった。同社は余震や本震を想定し、玄関扉の開閉難への対応やせん断クラックの養生資材を準備。照明タイマーの時刻設定などの研修もしていたため「発災後、スムーズに対応できた」という。
一方、懐中電灯では作業しづらかったとして「ランタンのような周囲を照らす照明の必要性を感じた」と指摘している。
東急コミュニティーは、停電で北海道支店の固定電話やネットワークが不通になったが、事前に用意していた非常用通信設備やモバイルパソコンで本社や事業部などと連絡を取り合うことができた。非常用蓄電池も備えていたが「停電の影響が大きかったため結果的に不足した」という。
235組合中63組合に被害があった三菱地所コミュニティーでは、震災翌日には全物件の1次現地確認が完了。
札幌市東区の物件では、外壁タイルの剥落やひび割れが多数発生したため、8日に高所作業車によるタイル除去作業を実施。10・12日にはゴンドラによる作業も行った。
別の東区の物件では前面車歩道の陥没に伴い下水道本管が損壊し、取り付けていた配管が脱管する被害があった。この影響で汚水が滞留したため、市に対して仮復旧が完了する8~12日まで、バキュームカーを出動してもらうよう要請した。
清田区の物件では、停電の復旧作業の際に電気設備の故障が判明。完全復旧に時間がかかるため、フロント担当者が隣接する同社管理マンションの管理組合に支援を要請し、この管理組合のボイラー電源で仮復旧した。断水は6~9日まで続いたが、通水していた別棟の管理センターを給水所にして対応したという。
同社は、SNSアプリ「LINE」が役立ったとする一方、停電でノートパソコンや携帯電話の充電が困難になったことから「蓄電池は1台の配置では心もとない」としている。
大和ライフネクストも、震災翌日には全物件の被害状況を把握。被害は124棟中15棟。内中破が3棟あった。壁破損、天井ボード脱落に加え、外構の陥没もあった。
同社は過去の震災の経験を生かして、マンション居住者向けに簡易トイレを手配した。資料類のフォーマットや掲示物などのひな形も共有した。室内用可搬型蓄電システムを設置していたことで「現地から社内ネットワークへのアクセス、携帯電話の充電などを行うことができた」としている。
それでも、各担当者の携帯電話の電源が不足だったため「各個人に充電機器や予備バッテリーを支給しておく必要性を感じた」と反省している。
コミュニティワンは、一部断水が続いていた管理物件で水を配布した。
野村不動産パートナーズでは、東京から札幌へ非常食や水などを手配した。
あなぶきハウジングサービスでは、48棟中5棟で被害があった。外壁やタイルの亀裂・剥落のほか、札幌市の物件では、敷地の一部が陥没した。業者に対応を依頼している。
過去の震災で使用した各居住者への被害状況のアンケート書式が役立ったという。
同社は「地震保険に加入している組合が管理物件の中でも半数」とし、今後は地震保険の提案をしていきたいとしている。
三井不動産レジデンシャルサービス北海道では、断水は地震翌日の7日、エレベーター停止は8日に、それぞれ全物件で復旧した。
同社は、対策本部がスムーズに設置できたとする一方、停電で交通機関が停止し、固定電話の不通や携帯電話の充電切れなどによって、地震直後の支援や情報提供が不十分だった点を踏まえ「大規模停電時におけるマニュアル類の作成も検討したい」としている。
以上マンション管理新聞第1083号より。
大きな地震であってもマンションの骨組み自体が崩れることはほとんどありません。一般的に、マンションの共用設備は管理会社が管理しているので、区分所有者等の負担は少なくて済んでいます。
しかしながら、地震のような天災への対応については、契約の対象外となっているのが通常で、管理会社には頼ることは出来ないと心得て、区分所有者等住人が自主的に対応しなければなりません。
あの南海トラフ巨大地震は、いま現在も含めて、向こう30年間の間にいつ起こるかもしれないといわれています。
発災時にマンション内に人がいるかいないかで管理組合での対応方法も変わってきます。
マンション内の居住人数、年齢特性、地域特性を踏まえた上で、適切な防災対策を準備する必要があります。
激しい揺れが予想される地域、甚大な火災発生の危険度が高い地域、津波の危険度が高い地域、山崩れの危険度が高い地域、といった違いがあり、ライフライン(電気、ガス、給水、排水等)の復旧にどれくらいの時間を要するかといったことも考えなければなりません。
さらに、マンションの立地場所の地盤が強いか弱いか、埋め立て地等かどうか、といった条件によっても被害状況は異なってきます。
管理組合として平常時から万全な防災対策をとっているかよっても被害は大きく異なります。
例えば、あらかじめ災害時の緊急時に要する事項に関する決定権を理事会だけでなく、防災委員会、緊急対策本部等に、被災時の一定期間、全権委任できるような柔軟な取り決めをしておけば、迅速な災害対応が可能になります。
また、建物の修復作業が始まるのはライフラインの復旧後になります。
復旧工事に入る時には、建設、電気、上下水、ガス、エレベーターなどの専門施工業者によって、点検、修理、確認などを行う必要があり、これらの施工業者の災害時の対応について、平常時から管理会社に確認しておかなければなりません。
それらの手順を防災マニュアルの中に組み入れておき、管理会社社員が不在時でも、区分所有者等の住民だけで対応できるように情報を共有しておくことが大切です。
さらに、高層マンションや超高層マンションは上層階ほど揺れが激しくなるので、家具の固定や設備機器などの安全対策は高層階、中層階、低層階等、それぞれ階層によっても大きく異なってきます。
マンション自体は壊れなくても家具等による圧死やケガ、同時多発火災や、ガスや電気の復旧時に起こる通電火災等によって大きな被害を受けることが考えられます。
また、上層階ほど階段による避難は極めて厳しく、低層であっても階段を使って降りることが困難な高齢者や病人などをいかに共助していくかなど、諸々の課題があり、家族だけでなく、近隣住戸の助け合いを含めた体制づくりが必要となってきます。
高層階の住戸まで重たい飲料水や食料品等を階段で運び上げることは困難を極め、非常用の備えは通常より多めの7日間から10日間分は確保する必要があります。
清田地区では、戸建て住宅が液状化により甚大な被害が出ておりますが、一般的に、杭基礎のマンションであれば杭は折損しても大きな不同沈下は起こりません。しかしながら、建物自体は安全でも、周辺の地面の移動との変位差が大きい地盤では、建物内と屋外とを繋ぐ配管は切れてしまうことがあります。
水平方向と上下方向とがそれぞれ10センチ程度であれば、フレキシブル配管の想定内なのですが、数十センチとなれば、通常の配管対策では対応できず、上記のように断水が続いてしまうことも考えられます。
このようにマンションの被害はその立地、建物の特性、地盤、居住階、家族構成などで全く異なります。いつ起こるかもしれない南海トラフ巨大地震、被災することになっても、自助と共助のコミュニティ力を発揮し、もともとハード面の強固なマンションならではの特性を活かした防災対策の準備をすることが求められています。