老いる団地、地価下落 建て替え難航 高齢化の重圧 「築40年以上」密集地、10年で9% 日本経済新聞H30.6.17
老朽マンションが地価の押し下げ要因になってきた。集合住宅が10棟以上集まる「密集地」の過去10年間の地価を日本経済新聞が調べたところ、平均築年数が40年以上の地域は約9%下落し、全体より6ポイント強も落ち込みが大きかった。かつて都市人口の受け皿だった郊外物件が多く、高齢化が目立つ。建物の新陳代謝を促す制度づくりを急がないと、活力を失う街が増えていく。
分譲マンションは2017年末で全国に14万棟以上あり、うち築40年以上は1割強。多くが1981年以降の新耐震基準を満たさない。震災時のリスクは高いが、17年4月時点で建て替えを終えたのは全体で232件どまりだ。
分析には不動産情報会社グルーブ・アール(東京・港)の全国の物件データと国土交通省の公示地価情報を使った。各棟からも最も近い地点を特定し、10棟以上が集まる3490地点を抽出。18年1月と08年1月の地価を比べた。
消費鈍り悪循環
浮かんだのは周辺物件が古くなるほど地価が下がる傾向だ。3490地点の平均下落率は2.6%だが、30年以上40年未満の地点は5.4%、40年以上は8.7%と下げ幅が拡大。下落地点の割合も40年以上は9割に達した。過去5年間は全体で18.8%上がったが、40年以上に限ると3.4%上昇にとどまった。
「老朽マンションの集積地は住民の高齢化も進み、人口が減りやすい」。日大の清水千弘教授は地価下落の背景を読み解く。地価は景気の動向、商業施設や交通網の状況も影響する。清水教授が所得などの変動要因を考慮した昨年の試算でも、老朽物件が地価を押し下げる結果が出た。
JR松戸駅から車で約20分の千葉県松戸市の小金原7丁目。近くに日本住宅公団(現都市再生機構)が1969年に賃貸を含め3千戸以上を整備した団地がある。10年間の地価下落率は26%。築40年以上の地域で最大だった。
周辺地域の65歳以上の高齢者率は3月末で48%と、市全体の25%を優に超す。3月末の人口は10年前より2割強減った。団地近くのスーパー店主は「売上は数年前より大幅に落ちた」と明かす。単身の高齢者が増えた結果、世帯当たりの購買量が減り高価な食品も売れないという。
高齢化で消費が鈍る悪循環が地価に響く。千葉県の我孫子市や船橋市、千葉市、埼玉県狭山市、大阪府箕面市も下落率が2割を超す地点があった。いずれも近隣に古い大型団地がある。70年代以降に大量供給された団地は同世代が集まったため高齢化も急だ。
超高層住宅(タワーマンション)が林立し、子育て世帯が殺到してる都心の再開発地区も同じ道をたどる懸念がある。大和不動産鑑定の竹内一雅主席研究員は「開発時期をずらし、世代バランスも取るなど、街づくりには中長期の視点が必要」と説く。
柔軟な制度必要
団地の衰退を止めるには建て替えが有効だが、5分の4以上の同意など高いハードルがある。しかも制度上ほとんどが全棟での実施を迫られる。近年の法改正などで耐震性に問題があれば5分の4の賛成で敷地売却して別の用途に転換できるようになったが、通常は全員の合意が要る。
マンション建て替えを支援する環境企画設計(東京・港)の堀口浩一代表取締役は「耐震性の条件を外して敷地売却のハードルを下げるべきだ」と訴える。一部の棟だけ再生できる制度を求める声もある。
建て替えなくても共用部に福祉・保育施設などを入れれば団地再生の一助となるが、これも4分の3以上の賛成が要る。千葉大の小林秀樹教授は「高齢化が進むと入院などで投票できない住民が増え、合意が難しくなる。決議要件を緩和すべきだ。」と話す。住民構成や要望の変化に応じ、選択肢を増やす新しい制度の必要性が強まっている。
以上、日本経済新聞 平成30年6月17日刊より。
マンションの建て替えを円滑に完遂させるためには、まず、建て替えを事業として成立させるための経済的条件が必要なことと、区分所有者の合意形成が必要となります。
区分所有者としては、極力良い条件で建て替えたいと考えるので、経済条件が良ければ、合意形成も比較的簡単になります。事業の費用内訳については、収入は余剰床の売却と区分所有者個々の負担金から成り立っています。また、地方公共団体等からの補助金等もある場合もあります。一方、支出は、解体や建築の為の工事費、転出者への補償金、設計・監理料・コンサルタント料等があります。できるだけ収入を多くするには、敷地に対して許容される最大容積率の大きな建物を建てて、余剰の床を高くデベロッパーに売却することです。ただし、容積率をめいっぱい使いきっているマンションがほとんどであり、マンション単独での事業成立が困難な場合が多く、周辺地域をも含めて再開発事業とする可能性も検討できる場合もあります。駅極近等で好立地条件の場合は、売り手市場になるので、できるだけ条件の良いデベロッパーを選定することが可能となります。
最大の支出は工事費であり、適正な工事を実施してくれるゼネコンを指名し、入札等で選びます。そして、デベロッパーとゼネコンのそれぞれから余剰床の売却額と工事費の見積もり額が出てきたら、建て替え事業の大枠が出来上がります。
建て替え前資産の評価額に比較して、区分所有者等にどれだけの面積を還元できるかは、事業収支出の調整となります。当該還元率についての区分所有者等の合意形成ができたら、建て替え事業は成立することになります。
当該日経新聞の記事にあるように、昭和40年から50年代に建てられた郊外型団地の老朽化が最近話題となっていますが、東京2020の影響もあり、住宅需要の都市回帰傾向や工事費の高騰等により、経済的に成り立つ事業実施は極めて困難であり、大きな政策課題となっているようです。
一方、合意形成についてですが、上記にもあるように、区分所有法上の建て替えの手続きとしては、法62条により、建て替え決議を区分所有者並びに議決権の各5分の4以上の承認を得る必要があり、決議成立後は、不賛成者に対し、売り渡し請求等も整備はされてはいますが、上記記事にもあるように、極力100%合意になるように区分所有者等に対する複数回の辛抱強い説得が必要となります。当該合意を得るためには、上記還元率が70~80%なければ説得は簡単にはできません。最近では、工事費超高騰のため、還元率が50%を下回ることも多く、郊外型の団地等に関しては、工事費の高騰が一段落するまでは、建て替えは実質上極めて困難となっています。